カ ラ フ ル な ふ ゆ

園山ふゆ 日々雑記

希望の音

聞いているだけで心踊り、希望が湧いてくる音がある。


ロックだったり、ポップスだったり、クラシックだったり、いろいろな音があるけれど、私にとってそんな音の頂点はmoonridersだ。moonridersは直接的に「がんばれよ」なんてしらけた台詞は口にしないけれど、聞いているだけで日々の嫌なことが消えていく。洒落ていてセクシー、クールでありながら熱っぽい。ひとことで言うと「大好き」だ。

 

moonridersという棘のある刺激的な花に吸い寄せられてからというもの、あちらの花よこちらの花よと飛び回ることはなくなった。他にも大好きなアーティストはいるし、ライブにも足を運ぶけれど代替えのきかない存在であることは間違いない。moonridersとは、moonridersムーンライダーズ属というたったひとつの花で、いつ好きになったのかも忘れたけれど、私の窓辺で常に咲き続けて永遠に枯れることはないと確信している。

 

moonridersから感じる希望のようなものは、音からインスパイアされるだけではない。メンバーがこの世界に存在しているという心強さ。彼らの存在自体が希望だ。私のような若輩者に言われるまでもなく、古参のファンは切実に感じておられるだろう。

 

現役最古のバンドは1975年に結成されているので、まだ私が幼児の域を超えていない時代からのファンも多い。ライブでは50代、60代、いやそれ以上とお見受けする方もいて、ライブ当日は会場でウォッチングするのが楽しみだ。「久しぶり」「元気?」などと声をかけあって立ち話をしているファンをこんなにも見かけるライブは他に経験がない。私は未加入だが、ファンクラブを通して交流があるのだろうか。分からないけれど、ご夫婦、パートナー同士での参戦率も高いように感じる。

 

どのライブだったのか忘れてしまったが、ライブ開始前のウォッチング中にチャーミングなご夫婦の姿が目にとまった。白髪がよく似合っている奥様の洋服が乙女のようにかわいらしい。その横に口数の少ないご主人がたたずんでいた。結婚指輪が見えたのでご夫婦だと勝手に想像したが、苦楽を共にしてきた人同士にしか醸し出せない佇まいが感じられた。そんなご夫婦の姿が心に残っていたので、日比谷野音でも姿をお見かけして嬉しくなった。おまけに今回は私の斜め前の席だ。こんな偶然あるんだね。

 

ライブ前にSNSを通して呼びかけがあったのでお手製の旗を持参していた。声が出せないかわりに旗を振る、コロナ禍らしい工夫だ。私はライブが始まるとすぐに旗を取り出し、心の中で声援を送り、手を高く振り上げて拍手した。

 

徐々に日が傾き、ステージの上に月が顔を出した。ご夫婦はペンライトをそっと出して手元で控えめに振った。真っ赤に光るペンライトはおそろいで、ご夫婦の高揚を代弁するかのように赤く静かに揺れている。それはまさに希望を託された光のように見えた。

 

私はこれまで自分とパートナーとの間で、同じ趣味をもつ必要はないと思ってきた。基本的に単独行動が好きなので、ライブの9割は1人で参戦してきた。だからといって周囲の人たちが好きな音楽を聞きたくないわけではないし、誘われたらライブにも同行している。パートナーや友達が何を好きでも構わない。嫌いなことや許せないことが合っていれば問題ないと思っている。

 

けれどあのチャーミングなご夫婦、そしてライブでの再会を喜ぶファンの方々の姿を見ると、同じ音に希望を見いだすことの幸せを少しだけうらやましくも感じた。私が結婚するようなことになったとして、その相手がmoonridersファンだったら日々の彩りが増えるだろうと想像する。

 

約11年ぶりのオリジナルアルバムが間もなく発売されるが、その後はもちろんアルバムをひっさげてのライブに期待が高まる。3月の日比谷野音で再会を約束してくれたし、もちろん次のライブも絶対にチケットを確保したい。もしかしたら2枚確保することになるかもしれない…ムムムと、近い未来に淡い希望を見いだしたり、見いださなかったりしている。